もぞらもぞら

東北のもぞもぞする話題を考察

薄目をあけてワンテーブル問題を眺めてみる

熱を帯びる河北のワンテーブル攻撃

備蓄用ゼリーの開発など防災関連事業を手掛ける宮城県多賀城市のワンテーブルと同社の島田昌幸社長に関する河北新報の報道が、近年まれにみるほどの熱を帯びています。

 

河北新報によればワンテーブルが自治体から受託した事業をめぐって複数の疑念が生じているということで、このうち福島県国見町では官製談合を疑わせる事案もあるようです。私は島田氏と直接の面識はないものの、氏のこれまでの活動を陰ながら評価していましたし、それだけに今回の報道はにわかに信じがたい部分もあります。 しかし河北新報YouTubeに公開した島田氏のものとされる音声データを聴いた限りでは、公共事業に携わる企業の代表として許されない発言がいくつもありました。

 

果たしてこれは不作為によるトラブルなのか、それとも談合のような事件にまで広がるものなのか。さしあたりウェブなどで拾える情報を整理してみました。

被災地に現れた若きリーダー

ワンテーブルの社長、島田昌幸氏は北海道岩見沢市出身の40歳です。若くして地域づくり事業に取り組みファミリアという会社を立ち上げました。経産省のコミュニティプロデューサーや国交省の観光地域プロデューサーなどを歴任し、現在は総務省の地域力創造アドバイザーに名を連ねています。

 

生産者と消費者をつなぐマルシェジャポン仙台を運営する人物としてメディアに紹介されたり、震災直後には炊き出しボランティアなども行っていました。その後、6次産業の商業施設「ロクファーム アタラタ」(名取市)や海沿いのレジャー基地「シチノリゾート」(七ヶ浜町)などをプロデュース・運営し、津波被災地に新たな風を巻き起こした人物として話題になりました。

 

2014年には河北新報出版センターから刊行された「東北発10人の新リーダー」に取り上げられるなど、島田氏は震災後の宮城において注目すべき存在となりました。2016年にワンテーブルを設立。「世界初」とされる防災ゼリー食品を開発し、近い将来の上場も目指していると報じられています。

のどかな町に「救急車12台」

こうしたなか、今年(2023年)2月3日に飛び込んできたのが河北新報の報道です。人口8000人の福島県国見町がなぜか高規格救急車を独自に研究開発し、いずれは完成した12台の救急車を町が所有するという記事でした。

 

町内からは町に対する疑問の声があがっているとの内容で、企業版ふるさと納税で寄付された4億3200万円が事業原資となることや、受託先はワンテーブルであることなどが明かされましたが、この時点では記事の主題はあくまでも「国見町に対する疑問」でした。

企業版ふるさと納税とワンテーブル

ところが翌2月4日以降、河北新報は疑いの目をワンテーブルにフォーカスします。ワンテーブルが去年から国見町との共同事業体「官民共創コンソーシアム」の事務局を務めていたことや、高規格救急車の公募型プロポーザルにワンテーブル1社だけが応じたこと、さらには町に寄付された企業版ふるさと納税が「課税逃れ」を目的にした可能性もあることなどを次々と指摘し、町とワンテーブルの癒着を疑うような論調に変わりました。

 

ワンテーブルへの疑念に関する河北新報の記事は、国見町以外の事案も含め今年2月に5本、3月にはきのう(26日)までに13本報じられています。もしかするとまだほかにも見逃したものがあるかもしれませんが、とにかく執拗なほどに連日「河北砲」が撃ち込まれているのです。しかも一部は島田氏の音声付き(ウェブ版)で。一連の報道を受けワンテーブルは3月23日、ウェブサイトに「お詫び」の文書を掲載し、島田氏が辞任する意向だと明らかにしました。

「問題発言」続出の音声データ

おそらく公開された音声が決め手になったのかと思われますが、実際そこには耳を疑うような発言が次々と飛び出します。参考までにその一部を書き起こしてみました。(聞き間違いがあるかもしれませんので詳細はこちらでご確認ください)

 

「ちっちゃい自治体って、経営できるんですよ。華々しくやるとハレーションが大きいからちょっとずつ侵食します」

 

「財政力指数が0.5以下(の自治体)って人もいない。ぶっちゃけバカです。現場の人には無理です」「そういうときに、うちはいま『第二役場』って、機能そのものをぶん取っている」

 

「1500人の村で50億円の予算を持っている。50億円を発注できるんだよ、毎年」「一歩踏み込むエリアっていうのは2地域だけある。本当に制圧できる。地方議会なんてそんなもんですよ」「ザコだから、いいから俺らの方が勉強してるしわかってるから、言うこと聞けっていうのが本音じゃないですか」

河北の報道手法はフェアなのか

河北新報によればこれは自社の官民連携事業に関する島田氏の発言だそうです。一方、ワンテーブルの発表では、発言はあくまでも島田氏が友人に対して語ったもので、それを録音され切り取られたということです。あまりにも雄弁に語る様子から、もしかするとお酒が入っていた可能性もあるでしょう。あるいは親しい相手に多少「盛って」話したのかもしれません。

 

私としてはそのようなプライベートでの発言を今回のタイミングに合わせて公開するのは、報道の手法としてフェアなのだろうかと疑問を感じます。ただ一方、実際に聴いてみた印象としては、島田氏はこうした感覚で国見町などさまざまな地域おこし事業を手掛けていたのかと、ひどく残念に思いました。ちなみに国見町の2021年度の財政力指数は0.31(町公表資料より)で、まさに島田氏が会話の中で見下していた「0.5以下の自治体」に該当します。それだけに、なおさら発言の真意が気になります。

監視役を果たせなかった町議会

ところで、こうした経緯を国見町の議会はどのように捉えていたのでしょうか。当時の議事録をたどっていくと、じつは複数の議員たちがこの事業を訝しく感じていながら、しっかり追求できていなかったことがわかります。それに対する町側の必死な答弁と、音声データで明かされた島田氏の発言をすり合わせるとかなり香ばしい臭いが漂ってくるのですが、本日はここまでとさせていただきます。

 

以下、余談です。県外の方にはわからないかもしれませんが宮城県民にとって河北新報に連日たたかれるというのは社会的にも精神的にも相当なダメージです。もし私なら心が折れるどころではないと思うだけに、つい島田氏の健康状態を心配してしまいます。河北新報の取材姿勢にはさすがだなと感心させられますが、ときに「ペンは剣よりも強し」となるということを忘れずにいただきたいものです。