もぞらもぞら

東北のもぞもぞする話題を考察

空き地で済むようなものにスカイツリー並みの予算を投じられるほど富める県みやぎ

東京スカイツリー並みの建設費

災害時の活用イメージ(宮城県のウェブサイトより)

11月22日の河北新報によると、当初295億円とされた宮城県広域防災拠点の総事業費は、増額に増額を重ねるマシマシ状態となり、ついに4割強増しの422億円まで膨らむ見込みとのこと。おもな財源には国の交付金などが充てられるものの、県の持ち出し分も増えるとみられ、11月27日の会見で村井知事は、これまでの153億円から204億円に県の負担が増える見通しを明らかにしたそうです。※1

 

この事業、これまでに工期も再三延長されて、2020年度だった完成予定は32年度に。もはや宮城県民は、大阪・関西万博の「350億円リング」を無駄遣いなどと批判できなくなりました。いや、万博なら入場料などの収入があり、地域経済への波及効果も期待できますが、こちらは将来にわたって維持管理費がかさむだけの「夢も希望もない」未来となる恐れすらあります。

 

もっともだからといって私は、宮城に広域防災拠点が不要だと言っているわけではありません。むしろ一日も早く整備すべきと思っています。なぜなら明日どんな災害が起きるかもわからないからです。ただ、そこに422億円という東京スカイツリー(本体建設費約400億円)並みの莫大なコストや、着手から20年という気の遠くなる期間を要するのがおかしい、愚策だと、言いたいだけです。

広い空き地で済むものが一大事業に

そもそも、広域防災拠点とはどのようなものでしょう。じつは明確な法的根拠や定義は無いそうですが、役割としては、災害が発生した際に県内外からの救援隊や支援物資の受け入れ、集積、分配などを広域的に行う拠点とされています。

 

小泉政権当時の2001年に国が都市再生プロジェクトの一環として基幹的防災拠点の考えを示し、03年には消防庁が広域防災拠点のあり方に関する報告書をまとめました。これらが広域防災拠点を考えるうえでのロールモデルになったと言われています。

 

いわゆる避難施設やシェルターなどとは異なるもので、ざっくり言うと、広い空き地と保管倉庫、それに駐車場やヘリポートなどがあれば十分です。基本的には大掛かりなハコモノは必要ありません。

災害時の活用イメージ(宮城県のウェブサイトより)

つまり、平時には憩いの公園として、災害時には救援・支援の基地として機能する「広大な空き地」さえあれば、広域防災拠点は成立するともいえるのです。では、なぜそのような広い空き地で済むようなものに、宮城県は422億円というケタはずれな予算と約20年もの事業期間を投じる必要があるのでしょうか。

リスク無視の用地選定と玉突き工事

そのカギとなるのが広域防災拠点の「用地選定」と「玉突き工事」です。宮城県は震災から2年後の2013年に検討会議を立ち上げ、仙台市宮城野区宮城野にある「JR仙台貨物ターミナル」を別の場所に移してもらい、その跡地17ヘクタールを整備用地として取得する方針を決めました。

 

流れとしては、まず移転先の土地を造成し→貨物ターミナルをそちらへ移転させ→その跡地に広域防災拠点を整備する…という、いわゆる「玉突き工事」です。そして2014年には早々と、県とJR貨物の間で138億円の土地の売買契約が結ばれました。※2

広域防災拠点イメージ(宮城県のウェブサイトより)

一方、貨物ターミナルの移転先に選ばれたのは、現在の場所から約5km離れた宮城野区岩切にある広大な農地です。近くにはJR貨物の仙台総合鉄道部もある、いわばJR側にとって好適地といえる場所ですが、農地だけに地盤が緩く、水がたまりやすいなどの問題があります。そのため造成には、地盤改良や水ハケ対策などが必要となり、当初の計画とずれが生じることになりました。

 

移転先の造成工事が延びるということは、そのまま移転の遅れにつながり、移転が進まないかぎり当然ながら広域防災拠点の本格工事も始まらないので、防災拠点の完成時期が遅れます。そこへさらに世界情勢などの影響で、工事に関する人件費や資材価格の高騰が重なりました。

 

貨物ターミナルの移転が、土地収用法上の「公共補償」に該当することも予算が膨らむ一因となっています。一般的な民有地の取得であれば、県は土地代など相手側の損失分を補償するだけですが、今回は公共施設の移転となるため、県は従来の貨物ターミナルの機能を回復する責務を負わされます。それにより、JR側の自己負担分とは別に、県の負担が発生し、仮にその費用が膨らめば、県の費用負担も増えるのです。

増額分の大半はJR貨物のために

こうして、当初の見込みより増額となる127億円のうち116億円が、広域防災拠点とは実質無関係の、JR貨物という「一民間企業のために」使われることになりました。言うまでもなく、138億円で契約した宮城野の「土地代とは別に」です。もちろんそれが法律で決まっていると言われれば、そうなのかもしれません。

 

しかし、こうなるリスクは土地の売買契約以前に十分想定できたはずで、はじめから公共施設ではなく民有地を選んでさえいれば、必要のなかった負担です。さらに言うなら、玉突き工事を考慮しなくていい土地を選んでおけば、工期が延びるリスクも軽減できました。こうしたリスクを無視して立てられた事業計画に、そもそもの甘さがあったということです。

問われる「規模」の妥当性

震災後、今回のように予算が膨らんだり完成が遅れるケースは、各地の復旧・復興工事でもたびたび起きました。ただ当時は復興事業が一斉に動き出したので「仕方のないこと」と、受け入れなくてはならない背景がありました。そして何よりも、県民の安全・安心を確保するために、一日も早く事業を進める必要に迫られていました。

 

しかし、広域防災拠点は「なくては困る」ものではなく「あったほうがいい」レベルの施設です。その必要性の低さをまさに現在の状況が裏付けているわけで、「着手から20年かかろうと、のんびり造ればいいや」という県の姿勢に表れています。

 

加えて宮城野という土地は「長町−利府断層帯」という活断層に近い問題も抱えています。万が一の場合には液状化の恐れがあることから、県議会でも早くから疑問の声がありました。また、近隣の道路整備も追いついておらず、何よりここまで広大な規模が必要なのかどうか、その妥当性については疑問が残ります。同じ震災被災地である、お隣の岩手県を見ると、その疑問はますます色濃くなります。

岩手の予算は宮城の1/100以下

2013年 岩手県の達増知事が当時の安倍総理に提出した要望書

岩手県は広域防災拠点について、「何よりも早期に防災体制を確立する必要がある」としたうえで、「必要最小限のコスト」にこだわり、「県内にある既存施設の活用」を前提としました。

 

そのうえで、達増知事は安倍総理に提出した要望書に「備蓄倉庫や通信設備など新たな施設や設備の整備も必要」として「全体事業費として1~3億円程度と試算」と記しています。同じ広域防災拠点でありながら、宮城県の事業予算の100分の1以下です。

 

その結果、岩手県は県内5つのエリアに、公園や体育館、工場などを活用した29施設を分散で整備し、既に運用を始めています。年間維持費は、備蓄食料の補充や更新などが中心で、全体でも2千万円程度に収まっており、今後は沿岸部にも整備する方針です。

「富」よりも「希望」に感じる誠

国の金だから遠慮なく使って時間がかかろうと大掛かりなものを造ろうとするのか、公金の負担を少しでも減らし一日も早く県民の安全・安心を確保しようとするのか。立場によって受け止め方は違うのかもしれませんが、私は後者に正義を感じます。ましてやそれが、復興特別税など国民に負担を強いて得られた浄財であるならばなお、感謝を込めてつつましく使うのが、被災地に生きる人間の矜持だと思います。

 

「富県みやぎ」のトップと、「希望郷いわて」のトップの哲学の差かもしれませんが、広域防災拠点に関しては、私は「富」よりも「希望」に誠があると感じています。

パブリックコメントを実施中

宮城県は、広域防災拠点の整備が採択から10年を過ぎてなお継続となることから11月22日、行政評価委員会に事業継続の妥当性を諮問しました。またこれに合わせて、県民から意見を募る「パブリックコメント」が12月21日まで実施されていて、県のウェブサイトから書き込めます。

 

ちなみに、県が公表している令和5年度の公共事業再評価調書では、広域防災拠点の費用対効果に関する評価が、なぜかB/C1.73→2.63にハネ上がっています。当然、なにか根拠があってのことなのでしょうし、内輪のお手盛りではないと信じていますが、行政評価委員会にはくれぐれも公正な判断をお願いしたいと思います。

 

(※1 …11/27 情報が更新されたので一部追記しました)

(※2…2023年4月27日 第211国会 東日本大震災復興特別委員会より)