仙台市に本店を置く七十七銀行は10日、2024年3月期決算を発表し、昨年度の純利益が過去最高の298億円になったことを明らかにしました。同行の純利益が過去最高を更新するのは3年連続で、貸出利息や株式の売却益などが大幅に増えたとしています。金利の上昇や株高といった経済情勢の恩恵を受けた形です。
一人負けのきらやか銀行
かたや、仙台銀行などを傘下に置く「じもとホールディングス」は厳しい状況です。山形市のきらやか銀行が、7億円の黒字予想としていた純損益を一転、244億円の過去最大の赤字に大幅下方修正したからです。その結果、じもとHD全体では、仙台銀行の純利益11億円を一人負けのきらやか銀行が溶かす形となり、連結の最終損益は234億円の巨額赤字に陥りました。
公的資金の再々注入受けたばかり
去年9月、じもとHDはきらやか銀行の財務基盤を強化するために、180億円の公的資金の注入を受けています。これによって、コロナ禍で打撃を受けた地元企業への貸し渋りを回避し、地域経済を支えるとしていましたが、私は当時「よその心配よりもまずは自分の心配をすべきではないか」と書きました。残念ながら懸念したとおりになってしまったわけで、この際に公的資金がどのように使われたかも精査されるべきと思います。
09年分は「返済困難」
じもとHDでは、きらやか銀行が2009年に受けた分の公的資金200億円の返済が今年9月に迫っていましたが、今回の大幅赤字の計上により「返済は困難」になったとして、国と期限の延長などを協議することを明らかにしています。
仮に返済の先送りが認められたとして、気になるのはそのあとです。前回同様、じもとHDと資本関係にあるSBIグループが、このタイミングを見計らって追加出資に動くのではないでしょうか。なぜならじもとHDが傘下に置く仙台銀行の経営状況は健全で、SBIから見ても魅力的に映ると思えるからです。以下、先に断っておきますが完全なる私の妄想です。
12年連続黒字の仙台銀行
仙台銀行は、東日本大震災以降12年連続で黒字決算となり、潤沢な内部留保もあります。一方SBIは、去年行った追加出資によって、じもとHDに対する持株比率を33.91%に高め、じもとHDの経営上の拒否権を握ったばかりか、実質的に仙台銀行を安く買い叩いたような状況です。
そこに発覚した今回の大赤字。経営母体の体力がさらに落ちたこの機に乗じて、SBIが仙台銀行を手中に収めようと考えてもおかしくないと思うのは私だけでしょうか。
半導体工場誘致とSBI
奇しくも、国が半導体産業の集積を進めるなか、SBIと台湾の半導体メーカーPSMCが共同出資する準備会社(JSMC)が、宮城県内に新たな工場を建設する計画が進んでいます。数千億から数兆円もの経済効果が期待されており、じもとHDは仙台銀行を中心にこの事業に深く関わることで成長戦略としたい考えです。
注目すべきは、PSMC側とじもとHD側のどちらにもリーチしているのがSBIだということです。「銀行が金(公的資金)を返すのは当たり前。経営者としての資格がない」と旧新生銀行の経営陣に投げかけた北尾吉孝氏(SBI社長)が、国への返済期限を延期しようとするじもとHDにも同じような言葉を浴びせないとは限りません。そして、その先に何が起きるのかは想像に難くないと思われます。
仙台銀行のゆくえ
もちろんそれが、仙台銀行や地域経済にとってはむしろ有益となる可能性もあります。もしかすると私は、慣れ親しんだ地元の銀行が、大手資本に飲み込まれそうになっていることに感傷的になっているだけなのかもしれません。
ただそれでも、仙台銀行自体が大赤字なら多少は納得できますが、万が一、系列銀行の大赤字の影響で実質的に身売りされるようなことになるのであれば、預金者も黙って見過ごさないのではないかと思っています。(しつこいですが妄想です)
株価は半値に急落
先月下旬、じもとHDの鈴木社長(仙台銀行頭取)と、同HDの川越会長(きらやか銀行頭取)が事実上の経営責任を取る形で辞意を表明するなど、同社は経営体制を刷新する姿勢を示しました。
これで何が改善されるのかは不明ですが、悲惨なのは株価急落の直撃を受けた投資家です。3月に年初来高値となる734円をつけたじもとHDの株価は、決算の下方修正を受けて一時、およそ半値となる372円まで売られ、現在も380円付近で停滞しています。
幻想だった「V字回復」
いくら投資は自己責任とはいえ、きらやか銀行は去年9月期の中間決算で黒字回復を発表し、通期ではきらやか銀行単体が7億円の黒字見通し、じもとHDが連結で17億円の黒字見通しであるとしていました。今年2月に出された第3四半期の決算短信でも業績予想の修正はなかったことから、投資家としては「銀行側に騙された」というのが率直な気持ちではないでしょうか。
中間決算を公表した去年11月には、「業績がV字回復した」として地元メディアに取り上げられ、川越頭取が「しっかりと企業を支えていくのが我々きらやか銀行としての責務。それがひいては地域経済を支えるものと私自身は考えている」と、誇らしげにインタビューに応えていました。
それから半年と経たずに明らかとなった、過去最大赤字への転落。銀行側はその理由として、「大口の粉飾決算など新たな事実が出た結果、多額の損失計上に至った」としていますが、そんな稀な事態が本決算の直前に、急にバタバタ出てきたとでも言うのでしょうか。
川越頭取がインタビューを受けた当時、もし巨額の赤字に陥る兆しにまったく気づかずに話していたなら、よほどマヌケな経営者だと言えるでしょう。逆にもし気づいていながら、それを隠していたとしたなら…もちろんそれはあり得ないとは思いますが、辞任で済むような話ではありません。
下手くそ投資顧問並み
それにしてもSBIのノウハウを活かすことで、じもとHDも投資による大きな収益を得られることが期待されていたはずですが、いったいどうしたことでしょう。日経平均株価が初の4万円台を記録するほどの好調な波に乗り、過去最高益を更新した七十七銀行とは対象的に、じもとHDは、例えるなら含み損が減った程度の変化だけで、目立った利益が乗せられていないことが気になります。
SBIと資本業務提携した2020年当時は日経平均が1991年以来、久々に2万6000円台を回復するなど比較的、買い向かいやすい時期でした。後出しのタラレバですが、もしこの当時に主力銘柄か日経連動ものを買って放置しておけば、今年3月には1.5倍くらいになっていた可能性もあったのです。
もちろん、どのようなポートフォリオなのか知らないので無責任なことは言えませんが、結果だけを見ると下手な投資顧問並みの運用成績だったのではと思われます。いやもちろん、SBIがわざとじもとHDに損をさせたなんて思っていませんよ。いや本当に、これっぽっちも思っていませんから。
※追記 悪材料出尽くしか株価反応
14日、じもとHDから決算短信が発表されました。それを読んでも、きらやか銀行の大幅な下方修正に関する説明には物足りなさを感じるだけですが、投資家は悪材料出尽くしと判断したのか株価はやや持ち直しているようです。
業績悪化の大きな原因は報道にもある通り、不良債権処理に伴う当初計画10年分の貸倒引当金を一括で計上し、与信関係費用が185億円余りになったこと。ほかに、有価証券ポートフォリオの見直しのため、国債などの償還で多額の損失が出たこと、などとしています。
銀行側はこれらをいずれも「先を見越しての判断」と説明していますが、果たしてそれだけでしょうか。2月の時点ですら業績予測の修正が無かっただけに、個人的にはこの会社の説明は半信半疑に捉えています。そして何より、去年9月の公的資金注入を無事受けるためには、実情を隠しておく必要があったたのではと、疑いたくなるばかりです。(再三しつこいですが妄想ですよ)