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東北のもぞもぞする話題を考察

国見町の救急車 すべての絵はワンテーブルが描いた? もしそうなら何のため?

救急車問題を抱えながら越年する国見町

今年2月に河北新報福島県国見町の「疑惑の救急車」問題を取り上げてから間もなく1年。企業版ふるさと納税による約4億3200万円の寄付金で製造した救急車12台をめぐるさまざまな疑念は、このまま雪に埋もれて年を越しそうな見通しです。百条委員会の調査が大詰めを迎える年明けに備え、一連の出来事を整理しました。

隠し録り?社長音声の破壊力

事態が大きく動いたのは今年3月のこと。国見町から官民連携事業の事務局を委託されていた防災関連企業・ワンテーブル(多賀城市)の社長(当時)が「超絶いいマネーロンダリング」などの不適切な発言をしたとして、河北新報が音声データを公開しました。これが隠し録りされたものかどうかは不明ですが、町は事実確認をしたうえで「信頼関係が崩れた」としてワンテーブルとの契約を解除。全国的にも奇妙な、失礼、珍しい「高規格救急車リース事業」はとん挫しました。

 

翌4月、町は住民説明会を開き、引地町長が自ら説明に立って火消しにまわりましたが、むしろ事業契約に関する不自然さが際立つばかり。6月には弁護士などで構成する第三者委員会が設置され調査に乗り出したものの、9月には委員3人のうち2人が辞任する異例の事態となり、町は新たな委員の補充を迫られました。町の事業や財務を精査する監査委員からも、町長以下、執行部に対して前代未聞ともいえる厳しい意見が出されるなど、町は現在も混迷のトンネルを掘り続けています。

百条委設置で報道が急増

こうしたなか、今まで静観気味だった河北新報以外の報道各社も、10月に町議会が百条委員会を立ち上げるとようやく本腰を入れ始めました。各紙、各局とも詳しいニュースを報じるようになり、国見町に対する福島県民の関心は高まるばかりです。

 

百条委員会は、地方自治法第100条の調査権に基づき議会が設置するもので、通常の調査委員会とは異なり、強制力、すなわち罰則規定が設けられています。出頭の要請や記録の提出などを求められた関係者はこれを拒むと禁錮や罰金に処せられる恐れがあり、処罰を回避するために重大な秘密が明かされることも少なくありません。報道機関が本腰を入れた背景には、こうした事情もあると思われます。

素人目にはDMMグループ内で利益を還流させたように見えるが…

ポイントは「仕様書」

なかでも、もっとも注目が集まっているのが救急車の「仕様書」です。町が事業者の選定に使う仕様書を作成するにあたり、ワンテーブルの業務提携先・ベルリングが有利になるよう、町が何らかの便宜を図ったのではないかと思われる不自然な点が見られるからです。もし万が一、そのような出来レースだったとすれば「官製談合」事件に発展する恐れもあり、この調査には相応の時間が割かれることでしょう。私も実際の仕様書を入手しましたが、確かにベルリングの「C-CABIN」という救急車に共通する部分が多く、もし他社が応募しようとしても対応できなかったのではないかと思いました。

 

この事業は国見町が公募したプロポーザルに、町の「官民共創コンソーシアム」の事務局でもあるワンテーブル1社だけが応じた形になっていて、そもそもの事業構想もワンテーブルが関わっていたと言われています。河北新報によれば、町がコンソーシアムを立ち上げる直前の去年2月には、ワンテーブルがベルリングに救急車を発注済みだったとされており、同社が町に寄付が寄せられることを事前に知っていた可能性も浮上します。

 

当然、百条委員会もこのあたりの推測は立てているのでしょうし、これらは町執行部とワンテーブルの両当事者に証言・証拠を求めれば簡単に解明できると思われます。百条委にはぜひとも「強い調査権」を発揮していただきたいところです。

寄付元はDMM.com

河北新報は先月、これまで「匿名」とされていた企業版ふるさと納税の寄付企業が「DMM.com」と同社グループ企業であると明かしました。これはもともとあった「寄付企業はベルリングの親会社」であるとの情報からも予測できたものですが、実際にそうわかると、一連の企業版ふるさと納税は「寄付を装ったグループ内での利益の還流」という見方も出てきます。国のガイドラインでは、自治体から寄付企業への経済的な見返りを禁じているものの、「公正なプロセスを経ていれば」自治体から子会社が受注できるらしく、今回のケースが「公正なプロセス」に該当するのかどうかも、百条委が調べる必要があると思われます。

課税回避が狙いかは疑問

さらに、寄付をした企業は法人関係税から「寄付金額の最大9割が税額控除」されるため、これらのふるさと納税は「課税逃れ」を狙ったものだと考えることもできるでしょう。ただし…これは全くの個人的な見解ですが…DMM.comほどの大手企業が、そのような小賢しい真似をする必要があるのだろうかという疑問も残ります。

 

グループ企業25社全体の売上は3,476億円にものぼるそうで、グループ内での利益の還流はともかく、課税逃れを図ろうとするならリスクの低い方法(合法の範囲)により税負担を軽くすることも可能ではないかと思われるからです。もっとも国税地方税に関する部分まで国見町の百条委員会が調べられるわけではありませんので、もしどうしても怪しいとなれば相応の捜査機関に委ねるしかないでしょう。

絵を描いたのはワンテーブルか

ところで、河北新報の横山記者が執筆した東洋経済の記事によると、DMM側は寄付に至った経緯について「ワンテーブルから、国見町が企業版ふるさと納税による高規格救急車の大量納品を希望しているとの打診を受けた」と説明したということです。

 

これがもし事実とすれば「すべての絵を描いたのはワンテーブル」という可能性が高くなり、そうなると「同社の目的がどこにあったのか」が全貌を解くカギになると思われます。官民連携事業であれば受託費の中の正当な利益を得るだけですが、「絵を描いていた」となると、ベルリングから(いま話題の)「キックバック」を受け取っていたのではないかと疑ってしまいます。あり得ないとは思いますが、受託費とキックバックの二重取りです。

 

いずれにしても、寄付金とはいえ町の予算(基金)に組み込まれた公金ですから、百条委員会はもちろん、引地町長はじめ国見町執行部には一点の曇りも残らぬよう、全力での解明・説明が必要だと思われます。