もぞらもぞら

東北のもぞもぞする話題を考察

人は善いことをしながら悪いことをするわかりにくいもの

(国見町ウェブサイトより)

追いつめる河北新報の「ペンの力」

「行政機能ぶん取る」などの社長発言を公開し、今年3月以降一気に熱を帯びた河北新報のワンテーブルに関する報道。毎度毎度、記事に便乗している私が言うのも何ですが、まだ公取も司直も手を伸ばしていない段階でここまでの報道は、その筆致が鋭いだけに同社の未来を奪いかねないと危惧しています。

 

今月16日の記事では、福島県国見町がコンソーシアムの業務委託先を公募した際、ワンテーブルだけが応募したことや、わずか2週間で委託が決まったことなどを挙げ「町があらかじめ委託先を決めていた可能性がある」と指摘。「コンソーシアムの事業を介して提携企業への利益誘導を図ろうとしたとみられる」と推察しています。

じつはまだ「グレーゾーン」

ここから思い浮かぶのは国見町とワンテーブルの癒着構造。コンソーシアムは企業版ふるさと納税を含めた公金吸い上げのための器だったのではないかという疑いです。どうなっているんだ国見町!、恐るべしワンテーブル!!…と、そんな感じでしょうか。いや、でも、でもですよ。これまだグレーゾーンですよね?

 

別に擁護するつもりはありませんが、この程度の話なら容易に言い逃れできてしまいます。応募が1社だけ…「専門知識が必要な業務だから仕方ない」。わずか2週間で決まった…「年度末や議会の時期を考慮して迅速に審査した」。利益誘導を図ろうとした…「営利企業と組む以上ある程度は許容されるべき」。

 

記事には「募集要項や委託先の選定に使う仕様書は、町の担当者がワンテーブル側と連絡を取り合いながら作成した」ともありますが、こうした「特殊な業務」の募集では自治体側が事前に事業者側の意見を聴くケースはあります。本来は避けるべきですが、自治体職員の負担を考えると悩ましいところです。

「救急車12台」さえ言い逃れできる

問題の「疑惑の救急車」についても言い訳できます。町の執行部に取り入ろうとしたのか…「信頼関係を培っただけ」。企業版ふるさと納税は自社の利益のためではないのか…「国見町のために寄付企業を探し出した」。救急車12台は不自然…「事業化を本気で考えるならむしろ少ないくらいだ」などなど。

 

国見町では今後、引地町長肝いりの第三者委員会が動き出します。町議会では定例会が開かれ、いずれは調査権限を持つ百条委員会が設置される可能性もあります。その中で不正の疑いがより濃厚になったり、あるいは捜査機関の手に委ねられることになったなら話は別ですが、今はあくまでもグレーです。

報道の余波は「他の自治体」にも

今月2日には「仙台市がワンテーブルの上場支援を解除」という小さな記事も載りました。市は同社を「仙台未来創造企業」に認定し株式上場を支援するとしていたのですが、「国見町などで不適切な官民連携事業を進めていた」として、今年3月に認定を解除したと議会答弁で明らかにしたそうです。

 

仙台市がどのような調査を経て認定解除を判断したのかは不明ですが、少なからず新聞報道の影響があったことは想像できます。これを「当たり前だ」「自業自得だ」と留飲を下げる人もいるでしょうが、しかしまだ不法行為があったとは確定していないグレーの段階であることも事実です。

実績も残した「亘理町」での事業

世間では「ワンテーブルが関与したものはすべて怪しい」という見方も出ています。しかしそれはあくまでも憶測であり、多くは報道の影響です。亘理町でも大きなプロジェクトが頓挫しましたが、それは不正というよりも物価高騰などの影響により同社が事業継続は困難だと判断し、町に中止を申し出たからとされています。

 

例えるならイケイケの若手社長が大風呂敷を広げたものの道半ばで挫折した形で、そうしたケースは世の中に無数にあります。事実、亘理町ではいくつかの事業が実施され、著名なアーティストを揃えた音楽イベントも好評でした。プロジェクトで募集した地域おこし協力隊員からは五輪選手も誕生します。事業が破綻した一方、実績は残しました。

真実はまだ「藪の中」

河北新報の取材力は評価しますが、私は国見町の事例が不自然過ぎるだけに、むしろ結論を急ぐべきではないと考えます。「鬼平犯科帳」ではありませんが、人は時として善いことをしながら悪いことをするわかりにくいものだという視点に立ち、もうしばらく成り行きを見守りたいと思います。