もぞらもぞら

東北のもぞもぞする話題を考察

ワンテーブルが内包する時代性と地域課題の解決

(国見町・広報くにみ/2019年より)  

国見町とワンテーブルの関係

福島県国見町は先ごろ、「疑惑の救急車」など一連の報道に関する住民説明会を実施し、質疑応答の模様を広報誌に掲載、ウェブサイトでも公開しました。すべての疑念を払しょくできるわけではないものの、町民の声に答えようとする姿勢は評価できます。

 

報道をきっかけに決裂した国見町とワンテーブルの関係ですが、町の資料によると両者は2019年、当時の太田久雄町長の時代に接近しています。JAXAとワンテーブルが進める「防災スペースフードプロジェクト」に町が参加、防災事業の協力について互いに覚書を交わしました。

借入金で「企業版ふるさと納税1号」

翌20年、ワンテーブルは国見町に企業版ふるさと納税第1号として945万円を寄付し、これをもとに町は地元産のリンゴによる備蓄用ゼリーの開発をワンテーブルに委託しました。先ごろ、河北新報の取材に対し島田社長は「借入金で寄付した」と当時の事情を話していて、寄付がビジネス目的だったことを明かしています。

 

国見町はこの年、リンゴに加え、町内産のモモの備蓄用ゼリーも投入。総事業費3850万円にのぼる地域プロモーションの財源には、同社からの寄付金のほか国の地方創生交付金なども充てられました。結果的にゼリーの製造費は1500万円に膨らみ、島田社長の「初期投資」の狙いは当たったと言えます。

「被災」・「防災」・「6次産業」

こうした流れから見えてくるのはワンテーブルという企業が内包する時代性です。東日本大震災での被災経験、その経験から長期保存食を生み出した発想、さらには蓄積された6次産業化に関するノウハウなど、同社が持つストーリー性が現代の地域課題の解決に合致することがわかります。

 

「防災スペースフードプロジェクト」の覚書を交わした2019年は、台風19号国見町に大きな被害が出た年でした。町民の防災意識が高まり、誰もが備蓄の大切さを実感する中、同社からの提案は町にとってもさぞ心強かったことでしょう。

 

翌20年には特産のモモに「せん孔細菌病」が広がり、国見町は大打撃を受けました。もし、地元の果物を備蓄用ゼリーに活用できれば、多少なりとも生産者の支えになることが期待できます。いずれはゼリーが町の名産品になり、近い将来、国見のモモを使ったゼリーが宇宙食に採用されるかも…などと夢が広がったかもしれません。

信頼関係から「救急車12台」へ

こうして国見町との関係を徐々に築いていったワンテーブルへの信頼が、新たに就任した引地真町長にも引き継がれたであろうことは想像に難くありません。そう考えると、同社が町から「官民共創コンソーシアム」の事務局を委託されたり、企業版ふるさと納税に助言を求められるようになったとしても不思議ではないと思われます。ただ問題なのはその後のこと。4億3200万円を計上した「高規格救急車12台」の事業です。

 

住民説明会で引地町長は「島田社長の不適切発言で信頼関係が損なわれ救急車事業を取りやめた」と話しました。さらに今回の問題について第三者委による調査を約束しています。もしや町長は、「危うく行政機能をぶん取られるところだった」と被害者意識でいるのかもしれません。

 

しかし恐らく多くの町民が疑問に思うのは、「なぜ町が高規格救急車のリース事業に乗り出そうとしたのか」という、そもそも論です。さらにその事業を公募する過程で「特定の業者が有利になるよう町が便宜を図ったのではないか」という疑惑です。つまり第三者委に頼らずとも、役場内ですぐ調べられ、答えられる問題です。

急がれる「仕様書」の解明

私には島田社長が不適切発言のような意図で国見町に接近したのかはわかりません。誰しも他人の心の中を覗くことができないからです。一方、ベルリング製の救急車に有利に見える仕様書を、誰がどのような狙いで作成したのかは担当課に問えばわかります。引地町長はまずはそこから始められてはいかがでしょうか。