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村井知事は暴走列車?高まる「4病院再編」への批判 国の方針を選挙公約にした不思議

県民から不評の「4病院再編構想」

 

「移転ができなければ辞職する」

このところ、報道から伝わる宮城県村井嘉浩知事の振る舞いが、やや荒れているように思われます。県が主導する仙台医療圏の4病院再編構想の進捗に遅れが目立つせいかもしれません。

 

先月31日には、県精神保健福祉審議会の会合に村井さんが乗り込み、名取市の県立精神医療センターを富谷市に移転させる代わりに、民間の精神科病院を誘致する考えを打ち出しました。しかしその場にいた委員からは異論が噴出したということです。

 

河北新報によると、「村井知事は『まずやらせてほしい。だめなら別の手を考えるが、結果として(移転が)できなければ、白旗を揚げて知事を辞職する』と迫ったが、委員の1人は『知事の進退は関係ない』と鼻白んだ」とのこと。さらに村井知事は、「『どのような意見が出ても私の考えに変わりはない。私を止めることができるのは県議会だけだ』」と、態度を硬化させたとしています。

 

「だめなら辞める」「いやならクビにしてくれ」 村井さんは前々からよくこうした言葉を使います。このように覚悟を示すことは政治家同士の交渉なら有効なのかもしれませんが、今回の相手は精神科医療や福祉の現場に詳しい専門家たちです。勢いに任せたような発言はむしろ空疎に響き、不信感を抱かせた可能性さえあります。

選挙公約にした4病院再編構想

名取市の県立精神医療センターと青葉区にある東北労災病院を富谷市明石台に移転・合築(併設)し、名取市の県立がんセンターと太白区にある仙台赤十字病院を一つに統合して、名取市植松に新たな病院として設置しようとする4病院再編構想。

 

村井さんが2年前の知事選で5期目の選挙公約に掲げたことで、4病院再編構想は広く県民に知れ渡りました。知事選では構想に反対する新人候補を圧勝で下しましたが、その後の進展では村井さんが苦戦を強いられている形です。

村井よしひろオフィシャルウェブサイト(2021)より引用

再編の対象となった医療機関の地元では、詳しい説明も無しに構想が立てられたことに批判の声が止みません。住民や患者、病院職員などの団体は県に計画の白紙撤回を求め、仙台市郡和子市長も知事の強引ともいえる姿勢に首を傾げています。

「精神医療への無理解」

とくに厳しい声が寄せられているのが、県立精神医療センターの富谷市への移転案です。センターと、周辺のクリニックやグループホーム、就労支援施設などが長い時間をかけて築き上げてきた「地域包括ケア」の基盤が、移転によって崩壊する恐れがあるからです。地域で支えてきた患者の生活が成り立たなくなるかもしれません。

 

民間の精神科病院で構成する県精神科病院協会は、「県が精神科医療の実情についてあまりにも無理解」だと批判したうえで、県立精神医療センターは名取市内に建て替え、新たな精神科病院は富谷市に誘致すべきとしています。詳細をみると、こちらのほうが現実的なプランに感じるのは私だけではないと思いますが、県はかたくなに提案の受け入れを拒んでいるようです。

地域医療構想と公立病院の経営強化

それにしてもなぜ村井さんは、4病院再編を選挙公約にしたのでしょう。ひょっとして何か自分の手柄にできそうな匂いを感じ取ったのでしょうか。私はこの問題がここまでこじれてしまったのは、国の方針を村井さんが独自の案のように選挙公約にしたことにも一因があると思っています。

 

4病院再編構想の下敷きとなっているのは、国の「地域医療構想」です。地域医療構想とは、厚生労働省が全国の都道府県に対し、少子高齢・人口減少などが深刻となる2040年の医療需要を見据え、医療施設の適正配置を促しているもので、実施のタイムリミットは再来年とされています。

 

ただし、精神科病床や感染症病床などは地域医療構想に含まれておらず、県立精神医療センターは対象外となります。

4病院再編構想のベースは国の医療施策

一方、総務省が進める「持続可能な公立病院経営の強化プラン」では、公立病院の独立行政法人化(職員の非公務員化)や、指定管理者制度の導入(運営の外部委託)などを含めた新たな経営方針を今年度中に策定するよう求めていて、こちらは県立である精神医療センターも対象に含まれます。

 

いずれも達成に向けた基金や、財政支援、財政措置など国のインセンティブが用意されているので、老朽化が著しい病院の建て替えを進めるには絶好の機会と言えるかもしれません。

公約実現の責任と県民への説明責任

これは想像ですが、「地域医療構想」と「公立病院経営の強化プラン」という国の2つの枠組みを同時期に利用すれば、県や各病院の負担を抑えつつ、4つの病院を2つの市に再配置できると考えたとしてもおかしくありません。

 

そのうえ再編されるのは県立と労災、赤十字という、それぞれ全く経営母体の異なる、しかも規模の大きな病院です。これなら確かに独自性もありますし、選挙公約としたうえで実現できれば対外的なインパクトも大きいでしょう。

 

とはいえ、県立精神医療センターは地域医療構想に含まれないため、東北労災病院とは統合できず、あくまでも併設となり、病院設置者が別々の状態でどの程度の再編効果が見込まれるのかは未知数です。

 

それでももし、村井さんが最初から県民への説明責任を果たそうと細かい努力を積み重ねていたなら、現在のような混乱は避けられたのかもしれません。しかしそれを選挙公約にしたことで、国から示された期限に加え自身5期目の任期も重なり、村井さんとしては引くに引けない状況にあるのかと思います。

村井知事はどこを向いているのか

私は村井さんは優秀な知事だと感じていますし、人柄の良さも知っています。震災後の宮城県の復興が順調に進んだのも村井さんだからこそできたことだと思っています。

 

ところが、水道民営化と騒がれたコンセッションや、県美術館の移転騒動、さらにはサン・ファン号の解体、宿泊税の検討など、ここ数年の村井県政には納得できない部分も少なくありません。それが政府の要請なのか、あるいはコンサルの入れ知恵なのかは分かりませんが、村井さんはいったいどこを向いているのでしょうか。

歩を緩め立ち止まる姿勢を

「村井知事は宮城出身じゃないからだめだ」「このままでは宮城を売られてしまう」「全国初と付けば何でも手を挙げる」「ブレーキの壊れた暴走列車みたいだ」などなど、私が気づいただけでも村井さんへの厳しい批判を声に出す人は増えてきたように思われます。

 

村井さん、このあたりで一度、歩を緩めてみてはいかがですか。ほんのひととき立ち止まり、県民とひざを突き合わせ、丁寧な説明を試みるためです。それは決して無駄な時間ではなく、まして今からでも遅くはないと私は思います。

 

※9/16「地域医療構想と公立病院の経営強化」以下の内容を加筆しました。