もぞらもぞら

東北のもぞもぞする話題を考察

赤字のきらやか銀行のせいで黒字の仙台銀行まで買い叩かれてしまう持ち株会社の悲哀。

金融庁が入居する霞が関コモンゲート西館 著作者:Rs1421

きらやか銀行に3度目の公的資金

金融庁は9月1日、業績悪化が続く山形市きらやか銀行の財務基盤を強化するため、同行の親会社にあたる「じもとホールディングス(HD)」に180億円の公的資金を注入すると発表しました。じもとHDは仙台市に本社を置く金融持ち株会社で、同行のほか仙台銀行などを傘下に収めています。

 

今回の公的資金注入は、コロナ禍で打撃を受けた地域経済を支えるための国の「コロナ特例」で、実施されるのは全国で初めてとなります。じもとHDは調達した資金をきらやか銀行を通じてコロナ禍にあえぐ中小企業への貸し出しなどに充てるとしていますが、同行はリーマンショック後の2009年と東日本大震災後の2012年にも合わせて300億円の公的資金を受け入れていて、このうち09年分の200億円の返済期限が来年に迫っています。

 

私のような素人はきらやか銀行に、「よその心配よりもまずは自分の心配をすべきではないか」と言いたくなってしまいますが、受け入れた公的資金を別の公的資金の返済(優先株などの買戻し)にまわすような自転車操業は許されないのでしょう。いや、できるのかもしれませんが少なくとも発表資料にはそのような使いみちは記されていませんでした。

SBIグループとの関係

今回の公的資金注入を招いたきらやか銀行の業績悪化の要因は、貸付先破綻による不良債権処理の影響が大きいとされています。しかし一部の情報誌は、インターネット金融大手・SBIグループにも原因があるとしています。

 

SBIグループは2020年、第三者割当増資35億円分を引き受ける形でじもとHDと資本業務提携を結び、きらやか銀行仙台銀行を「第4のメガバンク構想」に加えました。当時の説明では、じもとHDから託された有価証券をSBI側が運用し、評価益によって両行の収益力を強化することなどが提携の柱とされていました。今回も公的資金注入に合わせて、SBIは約20億円の追加出資を表明しています。

巨額の有価証券「評価損」

ところがです。開示された資料によると23年3月期の時点で、きらやか銀行が176億円、仙台銀行が135億円の計311億円もの評価損が生じていました。じもとHDの株価は低迷し、前回1株当たり958円だった増資の引受価格は今回、半額以下の371円となりました。

 

3年前の資本業務提携の際、私が記者会見で「議決権17%が35億円で手に入るなら安い買物ではないか」と尋ねたところ、SBIは否定も肯定もせず「現状のPBRが割安だから」と答えるのみでした。今回はさらに株価が下落したところでの増資となり、仮に実施されるとSBIの持株比率はついに節目となる33.3%を超え、33.91%に達し、じもとHDの経営上の拒否権を握る形になります。

内部留保171億円の仙台銀も手中に

これにより、じもとHD本体はもちろん100%子会社のきらやか銀行仙台銀行の経営にもSBIの意向が大きく影響することになり、とくに黒字経営が続く仙台銀行には171億円の内部留保がある(23年3月期末)ことを考えると、「安い買物」どころか「大バーゲン・プライス」になるとさえ言えます。

 

ちなみに、ややひねくれた気持ちで表面だけを眺めると、まるでSBIが委託された有価証券に故意に評価損を生じさせ、じもとHDの株価が下落したところを安く買い叩いたようにも見えます。確かに理論的には可能かもしれませんが、日本の一流企業であるSBIがそんなハゲタカ・ファンドまがいのことをやるはずがないと私は思います。確信は持てませんが、たぶんしないと思います。

 

今後もしSBIが、じもとHDの持ち株比率をさらに高め、非上場化に動くなら別ですが。